通信障害なら面接打ち切り
生徒のほぼ全員が大学に進学する東京都立高校の進路部主任の男性教諭は今年8月、大学の学校推薦型選抜や公募推薦の入試要項を確認していて、「オンライン面接を、受験生の自宅または学校で行うこと」「通信障害などで通信が遮断されたり、部屋に第三者が入るなどの不都合な事例が起こった場合は、入試を中断する」などの文面が複数あることに気づき、驚いたという。通信環境が悪くなるなどして試験が中断した場合、面接打ち切りの可能性や、再試験対応はしないなどの記載があったり、同意書を求めたりする大学もあった。
男性教諭は、「通信機器の整備が難しかったり、小さな子どもがいたりして、大学側の求める『誰も入らない、静かな、ネット環境の整った部屋』が用意できる家庭ばかりではない。一般社会でも通信状況が不良な事例は多いのに、求められる条件が厳しく、すべて個人の責任で準備するのは限界がある」と話す。
準備のできない受験生には、高校が教室や機材を提供することを前提とする大学もあるが、現状では高校で大学側が求める環境を整えるのは難しいという。放送やチャイム、部活動などの音が完全に遮断できる場所は限られるうえ、事前の接続テストも試験本番と同じ環境で実施する必要がある。学校の通信環境は十分とはいえず、すぐに改善できるだけの予算もない。試験が休日の場合、通信機器を扱える教員を待機させるなど教員の勤務の問題もある。
同校の校長は「大学入試センター試験では高校を試験会場に実施することもあったので、大学側は同様に考えたのかもしれないが、センター試験は都道府県教委を通じて高校の施設を貸すだけで教員は関わらなかった。今回とは事情が違う」と話す。同校は、通信環境や個室などの環境整備は難しく、責任を負えないとして、「高校を入試会場にはしない」と判断した。自宅を試験会場にするのが難しい生徒は、大学に相談することになる。校長は「希望者が数人なら対応できても、今後、増えれば破綻する。長期的に見て、生徒のプラスにはならないと考えた」と説明。「大学入試の環境や場所を整えるのは本来、大学の責任。それを生徒個人や学校が負うのはおかしいのでは」と話す。
文部科学省は9月、オンライン入試の実施にあたって各大学に、通信環境の不具合などで試験が継続できない場合や、入学志願者が通信環境を整えられない場合には、「特段の配慮」を求めることを通知した。
それでも男性教諭は、不安を拭えないという。「大学がどんな『配慮』をしてくれるのか、具体的な内容が公表されなければ、ひとつひとつ、事前にすべて確認しなければならない。何十人もの生徒がオンライン入試を受験することになった場合、責任を負いきれるでしょうか」